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芸術祭十月大歌舞伎 昼の部 マハーバーラタ戦記

10月23日 3階1列センター

迦楼奈/シヴァ神…尾上菊之助
汲手姫…中村時蔵
帝釈天…中村鴈治郎
鶴妖朶王女…中村七之助
百合守良王子/多聞天…坂東彦三郎
風韋摩王子…坂東亀蔵
阿龍樹雷王子/梵天…尾上松也
汲手姫/森鬼飛…中村梅枝
納倉王子/我斗風鬼写…中村萬太郎
沙羽出葉王子…中村種之助
弗機美姫…中村児太郎
森鬼獏…尾上菊市郎
拉南…市村橘太郎
道不奢早無王子…片岡亀蔵
修験者破流可判…河原崎権十郎
亜照楽多…坂東秀調
羅陀…市村萬次郎
弗機王/行者…市川團蔵
大黒天…坂東楽善
太陽神…市川左團次
那羅延天/仙人久理修那…尾上菊五郎

twitterが中心になってほぼブログは放置になってしまったのですが、今回余りに感想が盛りだくさんになってしまったので、久々にこちらを更新してみました。
序幕、完全にインド風な神々の場で一気に物語の世界に取り込まれる。
原作の物語を日本的な世界に全く置き換えるのではなく、歌舞伎の手法に日本文化の様式、ヴァルナなどのインド思想と文化様式を混在させ、なおかつ渾然一体と違和感なく溶け合っているのが不思議な感じ。
神話のストーリーに不戦という近代的なテーマを巧みに盛り込まれ、クリシュナがアルジュナに人間の「我」が永遠であることを説く場面は己の死生観が変わるかと思うような感動がありました。
人々の風俗が、江戸時代ではなく室町から安土桃山時代辺りにしているのは、戦争と平和をモチーフにしていることを示すためかな。
竹本、長唄の歌舞伎音楽とインド音楽を微妙に使い分けているのが面白かったけど、特にSPACによる打楽器の音楽はちょっと癖になりそう。

カルナはいかにも神話的英雄らしい純粋無垢の存在であり、更に菊ちゃんはカルナを清らかで煌びやかだけど空虚な「器」として演じていると思いました。確たる「我」がなく、ただ養父母や師匠、スーリヤ神、ドゥルヨーダナ、帝釈天に思想や感情を盛られ、注がれるるまま唯だ在る器。だから、ひたすら和解を説いていたのが一転して戦いを主張するのも自然に受け止められたように思います。そして、ヴィシュヌ神の示唆によって自ら死を選ぶことを決心した時、初めて「我」を獲得する。
それまでどこか美しい人形めいていたカルナが、自らの取るべき道を悟った瞬間、初めて命が宿したかのように見え、己が生まれて良かったか、父なる神に問う姿に胸を打たれました。
最初から王族、戦士たる自覚を持ち、兄を盛り立てるために戦うのだという確固たる「我」を確立しているアルジュナとは余りにも対照的。
菊ちゃんは本当に美しくて金色に輝くようで豊潤なまでの存在感で、まさに太陽神の御子であったよ…。

スーリヤ神にとってもカルナは思惑通りには動かなかったけど、力による支配を期待した帝釈天にとっても、温厚な兄に権力を執らせたアルジュナも思惑外れということになろうし、人は神々のゲーム=運命の駒ではないという示唆もあったのかな。

松也くんのアルジュナは、ただ武張っているばかりでない、愛情深さと繊細さをも併せ持つ、奥深い人柄。銀の鎧似合い過ぎかっこよ過ぎ。何しろ菊五郎劇団でお小姓とか若侍とかやってる頃から見ているので、菊ちゃんカルナと全くの互角で激しく立ち会っているのには、何か目頭が熱くなってしまったよ。立派になったねえ…

アルジュナを含めた5王子の個性がそれぞれ際立つように、破綻なくかつ手際よく描かれているのも素晴らしい。ユディシュティラには執着がないからこそ、博打のスリルに流されて簡単に財産や親族さえ手放してしまうだな、ギャンブル依存症の人ってそうなんだろうなって納得したw
ビーマもコメディリリーフ的な役回りかと思ったら、原作通りにクライマックスへの伏線とは言え恋愛エピソードにかなり尺を取ったのも、キャラクターの彫りを深くする工夫かと。
しかし何と言ってもナクラとサハデーヴァの双子の可愛らしいこと。萬太郎くんと種之助くんのシンクロっぷりがめっちゃキュートでメロメロ。実の母でないクンティー妃を心から慕い、兄たちの周りでわちゃわちゃする様子がほのぼのする一方で、半神らしく超能力を駆使するギャップがいい。
5王子いいなカルナくんも含めた6兄弟+いとこ姉弟で現世パロとか見たいな誰か書いて(他力本願

七之助ちゃんのドゥルヨーダナは評判以上。中村屋さんの舞台はしばらく見る機会がなくて、七之助ちゃん観るの久々なんだけど、見違えるような風格には目を見張った。玉様を思わせるオーラすら感じたな。
ドゥルヨーダナを女性にしたことによって、カルナに寄せる想いが恋愛感情のようでそうではないような微妙な色合いになるのが、更に心情描写を繊細なものにしていたかと。
(片岡)亀蔵さんのドゥフシャーサナも姉に対する屈折した感情を折々に感じさせて、ドゥルヨーダナ同様単純な敵役に終始しない描かれ方。

おやじさまはさすが圧倒的な存在感でした。とにかく神々の場では最高神たる風格で舞台を制していたし、アルジュナに「我」の不滅を説く場面はおやじさまの朗々たる声と語りがあってこそ観客の魂にまで響くのだなと。
左團次さんのどこか温かみのあるスーリヤとひたすら冷厳な帝釈天の対比も鮮やか。

クライマックスのカルナとアルジュナの戦車合戦は圧巻でしたな。やはり歌舞伎が歌舞伎座というホームを持っているからこそ実現した試みなのだなと実感しました。
一貫した世界観を持続しながら原作の長いストーリーを破綻なくまとめ、なおかつ高度に洗練された演出はもう見事と言うしか。
こんな舞台はかつて観たことがないし、観ることが出来たことを無上の幸運と感じられる舞台。ぜひ再演をお願いしたいです。

歌舞伎座「芸術祭十月大歌舞伎」極付印度伝 マハーバーラタ戦記 http://www.kabuki-bito.jp/mahabharata/
芸術祭十月大歌舞伎 | 歌舞伎座 | 歌舞伎美人(かぶきびと) http://www.kabuki-bito.jp/theaters/kabukiza/play/543
楊翠霞 * 観劇(歌舞伎) * 00:12 * comments(0) * trackbacks(0) * - -

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